平成20年度
(『大日蓮』H20.9)
7月8日午後1時より、宗務院大会議室において、平成20年度第1回海外派遣要員研修会が開催された。
この研修会は、僧侶主導の広宣流布を進める上で、有為の人材育成と海外布教状況の説明等を目的として、毎年2回開催しているものである。
初めに、漆畑行雄海外部長からのメッセージを芝頂恩海外部主任が代読した。そのなかで漆畑海外部長は、昨年から今年にかけて、台湾に2ヵ所とカナダ・バンクーバーに、それぞれ布教所が開設されたことを紹介した上で「世の中のグローバル化とともに、海外布教はますますその重要性を増してくるものと思われる。そのなかで、今後、宗門僧侶から有能な人材が次々に海外に派遣され、海外の広布が進み、やがて世界中に日蓮正宗寺院が建立されるのが将来の理想である。その宗門の理想に向けて、海外布教の礎(いしずえ)となる、それが派遣要員の使命であり、この研修会はその準備を整えるための重要な機会である。各位には、その高邁(こうまい)な理想のために、一身を捧げる覚悟を持って、より一層精進していただきたい(取意)」と海外派遣要員の使命の大なることが指導された。
続いて、アメリカ合衆国ロサンゼルスの妙法寺住職・高野泰信師から「海外布教の現場より」と題して講演があった。
そのなかで、高野師は「どの国に派遣されようとも、海外布教をしていく原動力となるものは、その国の言語を習得し、歴史や文化を勉強し、現地の人々と交流をし、経験を積み重ねていくことである。それは、実際に僧侶が現地の空気を吸い、現地の水を飲み、現地の人々と共に心底、苦楽を分かち合ってこそ学べるものである。そこに、海外布教の大切な意義があり、各位の重要な役割がある(取意)」と、20数年の海外経験をとおして得られた貴重な体験と海外布教現場での心得、また僧侶の使命について述べた。
講演終了後の2時からは、御法主日如上人猊下のお目通りを許され、その席で、派遣要員に尊い御指南を賜った。
再開された研修会では、5月に開催されたニューヨーク妙説寺決起大会のビデオを視聴した。
続いて、笠原建道海外部主任が、本年3月に行われたシンガポール御親修、ならびに6月に開設されたバンクーバー布教所開所法要の様子を、スライド写真を用いて紹介した。
そののち、海外部海外派遣要員制度の説明を兼ねて、「一歩一歩、着実に進展している海外布教ではあるが、さらに飛躍するためには、より多くの情熱ある人材が求められている。広布の人材として、いつ、いかなる地に在っても御奉公のかなうよう、努力精進を重ねていただきたい(取意)」との激励があった。
続いて行われた質疑応答では、活発な意見が交わされ、最後に、笠原主任の総括をもって、研修会は3時20分に閉会した。(三宅正倫 記)
(『大日蓮』H17.9)
7月13日、かねてより海外部翻訳委員会によって英訳・編纂されてきた英文の御書が、『The Gosho of Nichiren Daishonin Volume Ⅰ』として発刊された。
これまで、英文御書は他の宗教団体が翻訳したものしかなかったが、このたび海外担当僧侶をはじめ、日本国内の多くの法華講員や、アメリカの妙法寺ならびに妙信寺の語学を専門職とする法華講員の協力により、長い年月を経て完成したものである。
この御書には、日蓮大聖人の数多い御書のなかから、南条時光殿が賜った御書を中心に15篇が収録されている。
本文は、従来の翻訳文よりも、さらに本宗の教義に忠実に翻訳がなされ、また、見開きの左側に英語、右側に日本語が、対訳の形で示されている。
A5判、110頁余の体裁で、定価は700円(税込み)となっており、大石寺内事部第4課と総本山総坊バスターミナル内の書籍販売所で販売されている。
なお、本書に収録されている御書名は以下のとおり。
『聖人知三世事(富木殿御返事』(御書748頁)
『上野殿御返事』(同824頁)
『南条殿御返事』(同882頁)
『上野殿御返事(蹲鴟御消息)』(同1206頁)
『上野殿御返事(法要書)』(同1217頁)
『上野殿御返事(杖木書)』(同1358頁)
『上野殿御返事(竜門御書)』(同1427頁)
『上野殿御返事』(同1463頁)
『上野殿御返事』(同1479頁)
『上野殿御返事(子財書)』(同1494頁)
『上野殿御返事』(同1528頁)
『南条殿御返事(鶏冠書)』(同1569頁)
『上野尼御前御返事』(同1574頁)
(『大日蓮』H16.8)
5月8日午前10時(ロス=7日午後6時)より、海外部東京事務所(東京都品川区・妙光寺)とロサンゼルス妙法寺間で、インターネットを介したビデオ会議機能を用い、初の英語御書翻訳委員会日米合同会議が開催された。
この翻訳委員会は、平成7年5月に日蓮正宗版の英訳御書を発刊するため発足。これまで日本国内において66回の会議を重ねてきた。このほど、15篇の御書の英訳がほぼ完成し、待望の英訳御書第1巻の発刊を目指し、校正の段階に入った。今後、さらなる御書翻訳の充実を図るため、今回、ロサンゼルス妙法寺の翻訳委員会と合同して会議を開催する運びとなった。
「平成21年・『立正安国論』正義顕揚750年」の佳節を控え、『立正安国論』を含めた新しい英訳御書の早期の発刊が期待される。(野村正通 記)
[画像]:英語御書翻訳委員会日米合同会議
―第52回全国教師講習会の砌―
―平成15年8月22日/於総本山大講堂―
(海外部長・尾林日至『大日蓮』H15.10)
御下命により、50分ほど時間を頂戴いたしまして、現在、海外部を中心にして進めております海外布教研究会の現況について御報告させていただきます。
海外布教研究会は、特に海外に赴任しております住職や在勤者が、それぞれの国において適切な指導を展開していくなかにあって、もしも寺院あるいは住職によって指導・教導の内容に大きな隔たりがあったりいたしますと、海外広布にとって大きな障害ともなりかねません。
特に現代においてはコンピュータ時代を迎え、海外の御信徒も、例えば総本山に登山されて、お互いの国の状況や広布への願望等々を話し合い、交流するだけでなく、さらに友達となってコンピュータでのメールのやりとりを行うなど、国は離れていても御信徒同士の交流が非常に盛んでございます。
そういうことも含めまして、やはり海外赴任僧侶はお互いの共通認識の上に立って、正しく教導しなければならないということから、信仰上必要な案件についてお互いによく考え、検討し合い、また論文に仕上げて配布し、世界中で連帯して正しい教導を図っていけるようにしようという目的のもとに、平成9年6月に海外布教研究会が発足した次第でございます。
現在、海外布教研究会の皆さん方の努力によりまして、「アジアに関する歴史認識」「社会福祉の取り組みについて」「人工中絶についての見解」「謗法厳誡と海外布教」という4つのテーマについて報告が出来上がっておりまして、海外部だけではなく、宗務院の各部の部長さんをはじめ職員の方達、内事部の理事さん達、そして布教師の方々、あるいは海外の担当教師全員に配布してチェックをし、さらに意見を頂くよう進めております。
一往、この目的は、先程申しましたように海外に赴任する僧侶がお互いに共通認識の上に立って信徒の教導に当たっていこうということでございますけれども、必要な事項に応じては、国内の皆様方にも読んでいただけるような機会が生まれればというふうに念じております。
<海外布教の現況>
それでは最初に、海外布教の現況について少々、御報告をさせていただきたいと思います。
従前は海外信徒の教導をSGI(創価学会インタナショナル)会長に一任しておりましたが、そうしたことを一新いたしまして、宗門として直接、教導に当たっていくことを、平成3年3月5日にSGI会長宛てに通告いたしました。それから宗門主導の海外布教が始まったわけであります。
御承知のように、当時はアメリカにNST(日蓮正宗寺院)という法人が出来、6ヵ寺の体制が整っておりました。また、ブラジルのサンパウロに1ヵ寺あり、都合7ヵ寺が海外寺院として実在し、約15名の住職乃至、在勤者が派遣されておりました。
それが現在は、世界の宗門信徒は、インドネシアの59万人を含めて、およそ63万人に上り、アジアを中心にして南米、そして北米、欧州、アフリカ、オセアニアと世界全域に分布しております。ただし、その比率としては韓国、台湾、インドネシアなどのアジアが大半であります。
家族全体の信仰、一家全体の実践ということではアジアが突出しておりまして、台湾、韓国、シンガポール、マレーシア、インドネシア等々、家族が一緒になっての信仰ということになりますと、断然やはりアジアでございます。どうしてもヨーロツパ、あるいはアメリカ等の国々では、個人主義的な風潮が強くあるようで、一家のなかでお父さん、あるいはお母さん、子供が信心を実践していても、なかなか家族全体の信仰ということに結びつけることが難しい状況があります。
ですから現在、急激な進展ということになりますと、台湾が非常に突出しております。平成9年4月に本興院が開設されてから、約6年の間に5ヵ寺の体制まで進みまして、当初は3000人からスタートした台湾メンバーも、現在は1万6000名を越える規模に発展をしております。
現在、世界の布教拠点は、11の寺院をはじめといたしまして布教所、事務所、出張所等を合わせると13ヵ国、26ヵ所に上り、現在赴任しております常駐僧侶は、住職と在勤者を合わせまして36名になります。つまり、この12年間における海外布教の進展は、数字の上におきましても約3倍ということになっております。
日本からの遠近、また規模の大小を問わず、いずれの国や地域におきましても、寺院の建立と僧侶の常駐を切望しております。現在でも特に大韓民国、あるいはヨーロッパのイギリス、イタリア、北米のカナダ、あるいは東南アジアのタイというような国においてよく聞くことは、「なんとか早く寺院や布教所を建ててほしい」という声でございます。
しかし宗門といたしましても、ただ闇雲に建てればいいということではありませんので、ある程度の陣容が整い、その地域に布教所乃至、寺院を建立して、自立して活動していけるという1つの目途(もくと)を立てて、その上においてよく検討し、最終的には御法主上人猊下の御裁可をいただくという形になっております。
各国の布教体制の整備とともに、その国の歴史、文化、民族、宗教、言語、風俗、習慣や国家体制、法律、宗教政策等に関する調査研究も必要になってきております。
例えば、これは御承知の方も多いと思いますが、インドネシアにおきましては、1945年の独立の時に「建国5原則」というものが立てられました。したがって現在、施行されております憲法の前文にも、その「建国5原則」が謳(うた)われておりまして、そのなかに全知全能の神への信仰、唯一絶対神への信仰ということがあります。このほかにも、公正にして文化的な人道主義、またスマトラ人・ジャワ人・バリ人・マレー人等々の他民族のインドネシアの統一。また協議と代議制において、英知によって導かれる民主主義、全インドネシア国民に対する社会正義の具現ということが謳われております。
インドネシアは、人口的にはイスラム教が95パーセントの国であります。それ以外の3パーセントが仏教、そしてまた一部がキリスト教やヒンズー教という分布になっております。そうしたなかで、日蓮正宗がインドネシア政府から容認されているということは、1つには憲法前文に謳われる全知全能の神が、日蓮正宗においては久遠元初の自受用身、久遠元初の御本仏がそれに当たるという教義的な説明が政府から認証され、日蓮正宗の弘通が認められているということがございます。
それともう1つは、東南アジア各国にはたくさんの華人、昔は華僑(かきょう)と言われましたが、そういう人達がおられます。特にイギリス、オランダ、スペインというような国々が東南アジア各国を植民地として支配した時代が16世紀から19世紀まで、約400年間続いたわけでありますが、そうした時代に植民地政策の一環として、たくさんの中国人が香港を経由して東南アジア各国に労働者として入植をしたのであります。そういう人達の子孫が、東南アジア各国に合わせますと、今でも約1500万人を越えると言われております。
また、そういう人達が今現在、インドネシアあるいはタイ、シンガポール、マレーシア等々に散在いたしまして、日蓮正宗の信仰を支え、また東南アジア各国の広布の大任に当たってくれているわけであります。たしかに300年、400年昔は労働者として、その国に入植したわけでありますけれども、しかし何代となく世代を越えて、その国に生き続けて来られた、その実績の上から経済的にも、社会的にも大きな力となって今、東南アジア広布の本当の推進者、実行者となってくれているわけであります。
ですから300年、400年前には考えられなかった中国人のそうした役割、広布の使命というものを考えてみますと、本当に不思議なことだと思うのであります。当時はだれも考えつかなかった、思いもいたさなかったことだと思いますけれども、現時になって、世界広布の時代を迎えて振り返って考えてみますと、やはりインド人、中国人、あるいは日本人というこの3国の方々は、特に釈尊の在世から末法における仏法流伝の大きな使命を果たす民族として、その大任を戴いているという思いがするのであります。それも不思議なことでありまして、実際に東南アジア各国での中国人の役割は、本当に大きなものがあるということを認識していただきたいと思います。
<研究会発足の理由>
次に、研究会発足の理由でありますが、1つには「僧侶主導の海外布教の確固たる基盤を構築するため、現地法人の設立に関する調査研究」ということがございます。これは何回も現地に赴き、そして現地の信徒の代表者、あるいは現地の弁護士さん達、政府の要人等々と接触をして話し合いをし、そういうなかで、はたしてその国に宗教法人があるのかどうか、宗教法人格を取ることができるのかどうか、あるいはビザがどうなっているのか、どうすれば短期のビザから僧侶として常駐し宗教活動ができるビザを取得することができるか、といったことを、それぞれ国状が違いますから、一国一国調査研究をするということが、どうしても必要になってまいります。
現在でも努力はしていますけれども、なかなか難しい国もあります。例えば、ある国では「日蓮正宗テンプル」という法人を取得することができまして、私がその代表者となり、そしてまた何人かの僧侶が理事として入っております。けれども、一方で派遣する僧侶のビザがまだ取れないという状況もあったりするわけで、法人が出来たから即、僧侶の派遣が可能かというとそうもいかないのです。やはり政府からの僧侶としての受け入れの許可がきちんと取れ、両方が相まって初めて、布教所なり寺院なりの建設へと進んでいくわけであります。
2番目といたしまして、「国によって異なる適正な布教方法・布教形態に関する調査研究」ということも当然、必要であります。
例えば、日本におきましては種脱相対の宗義の上から、大聖人様と釈尊との間には下種の御本仏と脱益の仏という明確な違いを立てます。
現在、インドの人達はほとんどがヒンズー教徒でありますけれども、また釈尊に対する信仰に近いような尊敬の心は非常に深いものがあります。だから、ヒンズー教の人であっても、ヒンズーの神々だけではなく釈尊の仏像も家の中に安置してあるという家庭が非常に多いのであります。やはりインド人として、歴史上あるいは宗教上の仏として、または大人物として尊敬する気持ちを多くの人が持っているのです。
ですから、ヒンズー教の人といえどもインド人の前で、「釈尊は過去の脱仏である」ということを言いますと、やはり不快な顔をいたしますし、また、そういうことを言う人は来てもらわなくても結構ですと反発を買いかねません。したがって、ダイレクトにあまり強い言葉で釈尊を誹謗したり、釈尊の法義を強い言葉で破折をするということは非常に危険であります。
それからまた、インドネシアやシンガポール等々におきましても、他の宗教を公衆の面前で破折誹謗するということは御法度(はっと) であります。
シンガポールなどは、淡路島ぐらいの大きさでありますから、非常に小さな国であります。そういう小さな国ですから当然、社会の隅々まで政府の目が行き届いております。そういう国で極端に他の宗教を誹謗したりいたしますと、やはりそれは敢り締まりの対象になりますし、その国にある種の混乱を起こす人物ということを言われます。したがって、こういう国では折伏という言葉もダイレクトには使えないのであり、教化、育成、指導といったことが表にならざるをえません。つまり正しいものを目指していこうという呼び掛けは結構でありますけれども、あからさまに公衆の面前で他の宗派を断罪する、あるいは誹謗するということは許されない。そういうところにも気をつけながら、現在こういう国での布教が進んでいる次第であります。
それから集会や法要等も、きちんと政府に登録して認可を得た建物、それは寺院にしろ布教所にしろ、きちんと認可を取った建物でなければ行うことができないという所もあります。もちろん登録した建造物の中での集会、法要、儀式は結構でありますけれども、登録していない所での集会、たとえそれがメンバーの家庭であったとしても、そういう所で大勢の人が集まって無届けで集会あるいは座談会等を開くということは難しい状況もございます。
3番目といたしまして、「国家体制・法律・宗教政策・民族・宗教・言語・歴史・文化・風俗・習慣等の相異を踏まえ、その国における適正な布教方法を宗是たる謗法厳誡に照らして調査研究」するということも、やはり必要であります。
インドネシアなどは、宗教省という1つの省庁がございます。あるいはアルゼンチンでも宗教局というものがありまして、お寺を建設することも、それから活動することも、さらに法人格等のこともすべて、きちんとこういうところの認可を取り、また、あらかじめどういう年中行事を奉修するのかということをきちんと登録をいたしまして、その認可のもとに活動するということが現在行われているわけであります。やはりそうした省庁からの目も注がれているということを常に認識しながら活動をしていくということも必要であります。
4番目といたしまして、「価値観の多様化に伴って変化する文化一般の諸問題、科学技術や医療技術の発展に伴って急速に変化する生命倫理の諸問題等、近年、世界的規模で進む諸々のテーマに対して本宗教義の上から適正な見解を導くための調査研究」ということも大切であります。
また5番目といたしましては、「世界宗教としてのキリスト教やイスラム教、一部の国や地域に定着するユダヤ教やヒンズー教のような民族宗教をはじめ、本宗の海外布教が直面する諸宗教の研究。併せて異教徒の住む国における布教の在り方」についてもよく考えなければなりません。
これはどうしても避けられない道でありまして、これから宗門の広布が大きく進展していけば進展していくほど、他宗教への対応も真剣に考えて取り組んでいかなければならないと思うのであります。そしてまた、現地の信徒を他宗教からどう守っていくかということも大切なことであります。
<海外布教研究会の構成>
次に、現在進められております海外布教研究会の構成といたしましては、まず研究会は6つの分科会に分かれており、そこに研究員として16名の方に当たっていただいております。そのほかに、あと28名の担当教師乃至、海外派遣要員でもって全体が構成されております。海外派遣要員は全員、その準研究員として分科会に所属して研究に参加し、また実際の論文作成等々にも当たっていただいております。
そして、1つのテーマ研究の最終段階で論文の内容を吟味するチェック班、また文章をチェックする構成班を併せて設置し、出来上がったものをそちらに回すようにいたしております。また研究会の本会議に教学部の主任に加わっていただきまして、本宗の伝統法義とのすり合わせも併せて行っております。
ちなみに、この分科会の構成と研究テーマについて申し上げますと、第1分科会は、王仏冥合・社会福祉・戦後認識、あるいはまた核兵器の廃絶であるとか、国によって徴兵制というものが残っている国もたくさんございます。そういう国における信徒の立場から、徴兵制に対してどう対応していくか。あるいは社会福祉の取り組み、日本におきましては憲法第9条について、あるいは死刑制度の廃止や葬送の自由についての見解など、政治問題やそれに付随する事柄について併せて研究してみようということになっております。
第2分科会といたしましては、臓器移植、尊厳死、遺伝子治療、脳死、生殖医療、ホスピス、環境問題など、そういった生命倫理に関わる問題を複合的に研究して、お互いの統一認識に立とうということで進めております。
第3分科会は社会文化の問題です。僧侶の肉食妻帯、最近とみに問題になってまいりました同性愛者の問題、自殺者や特にその家族に対する指導の在り方、それから菜食主義と肉食主義について、というような問題を取り上げて研究の対象としようということであります。
昔、私も海外部の仕事をさせていただいて一番初期のころに、まだ海外の出張御授戒等を全部SGIに一任した形でやっていた時に、出張御授戒の要請がありますと、その前に必ず学会の本部で打ち合わせをいたしました。その時には大体、秋谷乃至、池田が最後に出てきまして、約1時間ぐらい、それぞれの各国の宗教事情とか広布の展望などといって池田の独演会みたいになりまして、本当に色々なことをしゃべっておりました。
そういうなかで特に言っていたことは、「ヨーロッパに日蓮正宗のお寺を建てることは、本当にこれは不可能です。まずできません」ということまで言っていました。それから、「シンガポールであるとか台湾であるといった東南アジアにも、日蓮正宗の寺院はまず無理でしょう」と。ですから最終的には「学会でなければなりません。学会でなければできません」と、言いわけのようなことを盛んに言っておりまして、毎回そういうことを繰り返しておりました。
そこで「なぜ、そうなのか」ということを聞きますと、やはり「日蓮正宗の御僧侶は、ほとんどの方が家族を持っていらっしゃる、妻帯をしておられる。どうしてもそれがネックになって、キリスト教やあるいはその国に先に広まった様々な宗教から必ず、そこのところをあげつらわれて、日蓮正宗は堕落した宗教であるというようなことを言われ、大騒ぎになって、まず御僧侶が安定した形で布教を進めるということは難しいのだ」と盛んに言っていました。
したがって実際に、台湾に「日蓮正宗信徒弘法会」が出来て、これはまだ信徒の団体でありましたが、そこに一番最初に宗門の僧侶を派遣することになった時に、そういう問題も1つの考慮の対象になったわけです。そこで、最初は僧侶だけが赴任して、ある程度様子が判ってから家族を呼び寄せたらどうかというようなことも考えまして、一時、そういうことの提案も御法主上人に申し上げたこともありました。しかし、その時に猊下がはっきりおっしゃったことは、「そういう隠し立て、姑息な手段を用いて、あとから実は奥さんがいました、子供がいましたなどと連れていくような、みっともないことはよしなさい。初めから堂々と正直に家族を連れて行って、それで受け入れられないなら受け入れられないで、しょうがないじゃないか。そういう隠し立てをしないで、どこまでも宗門はきちんと正直に行きなさい」ということで、台湾の初めての赴任者に対しましても家族一同、一体となって、奥さんにも現地のメンバーに交流していただいて、また広布の片腕となって活動・活躍をしていただいたわけであります。
実際に今、ヨーロッパのスペインにも寺院が開かれて既に10年になります。あるいは台湾も先程申しましたように1ヵ寺体制から5ヵ寺の体制に急激に進展しております。シンガポールにも開妙布教所が開かれて滝川信雅師家族が赴任しておりますが、そのことが問題になって帰されるというようなことはありません。また現地の人達も奥さんにもなじんでいただき、子供も可愛がっていただいております。
したがって、要は日蓮正宗の僧侶としての道念の上から正直に誠意を持って対応し、そして日蓮正宗の僧侶の活動を内側から支える寺族も現地の皆さんと共に汗を流して協力し、家族が共に懸命に努力し、またその国に一心に挺身していくならば、必ずその国の信徒からも受け入れられるということを確信する次第であります。
実際にそういうことも一時、考慮した時代もありましたけれども、今はどの国に派遣する場合でも堂々と、包み隠さずそのことを申し上げて、実際に家族のビザも取っていただいて一緒に赴任をするということにいたしております。そういう点では、どこまでも正直であって誠意を尽くせば、きちんと理解されるという1つの確信も持つ次第であります。
次の第4分科会は謗法厳誡、摂折二門、随方毘尼、四悉檀等の伝統法義に対する問題や、それらを用いた実際の海外広布の展開、さらに各宗教の研究ということを扱います。
謗法厳誡をどこまで貫くことができるかということは、1つの難しい問題であります。それと同時に、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教や、あるいはチベツト仏教、タイ小乗仏教、スリランカ小乗仏教というものに対する調査研究ということも怠ることはできません。
謗法厳誡、あるいは摂折二門につきましては、よく四悉檀を用い、随方毘尼という有り難い御法門もございます。そういうものを勘案しながら、やはり本義はどこまでも曲げることはできませんけども、布教の方法としては、それぞれの国々の実状に合わせながら、穏やかに誠意を持って、諄々(じゅんじゅん)と説くことが必要な国もあれば、ある程度日本と同じように自由に展開できる国もあり、それは様々であります。しかし、いずれにしても、その国にあらぬ混乱が生じないように気をつけながら、布教を展開しているところであります。
第5分科会は、特に今日の映像時代を迎えまして、ビデオ等の視覚に訴える布教を研究テーマとしております。映像の布教研究というのは、特に海外広布の現況をビデオに収録いたしまして、これを日本の法華講の皆さん方との交流、あるいは海外信徒間の信心の深化に役立てていただければというふうに思っている次第であります。
<研究会の進捗状況>
次に、研究会の進捗状況でありますが、平成9年6月の発足以降、既に30回に及ぶ本会議を開催いたしました。また本会議に並行して、各分科会も年に3乃至、4回開催を続けております。各分科会で完成度の高いテーマ論文を作成して本会議に提出し、そこで重点的な検討も行われております。
テーマの最終成果は小冊子にまとめて発行し、海外布教の現場で活用していきたいと思っております。現在のところ、ただいま申しましたように、4つのテーマが最終段階に入りまして小冊子化されております。これもさらに、もう少し検討をいたしまして、どこに出しても恥ずかしくないものに仕上げたいと思っております。
<テーマ別研究の成果>
次に、テーマ別研究の成果について報告いたしますと、1つには「アジアに関する歴史認識」という問題であります。
8月6日、いわゆる広島に原爆が投下された日であります。また8月15日の終戦の記念日といった時に合わせて、今年も新聞やテレビでは色々な報道がなされておりました。それらの新聞の報道や、あるいはテレビの放映の状況を見ますと、やはり原爆や戦争の悲惨さ、あるいはその時の家族の苦労などを伝えるということが番組の主眼になっておりまして、実はその前に、満州事変に始まって、日本の軍隊が東南アジア各国を戦場化し、その過程における様々な振る舞いというものに対する認識、報道というものが、どうしても欠落をしておるように思います。やはり日本人も大きな被害者なんだという場面が強調されて、実際に、それ以前に東南アジア各国において日本が何をしてきたかという加害者の側面についての報道は、ほとんどなされないというのが現実でございます。
しかし、韓国人あるいは中国人に対しましても、またシンガポールやマレーシア、特にまたフィリピンでも、そういう国にまいりますと、やはり反日感情というのは、まだまだ抜き難いものがございます。
相手は信徒ですから日蓮正宗の信仰を全うしたいという一念があります。当然、僧侶に対する尊敬の気持ちと、僧侶からの教導を受けたいという気持ちはありますから、表面上は過去の惨状のことを、けっして口には出されません。口には出されませんけれども、やはり家族のだれかを失ったり、家族のだれかが大きく傷ついたという歴史を背負って今を生きておられますから、心の奥底において、なんらかの日本人に対する悪感情を持っているということも事実でございます。
したがって私達も、そういう国に赴任して布教する場合は、やはり過去のことを懺悔し、そしてまた、そういう国の人々の痛みを理解し、分かち合うという認識をもった上から、日蓮正宗僧侶としての教導を図っていくということを、どうしても考えていかなければならないという側面があるということを知っていただきたいと思います。
中国における南京大虐殺なども、あったとかなかったとか、日本でも色々な議論があります。被害者は30万人などという報告もあり、反対にそれが大げさすぎるというような議論もあります。しかし、人数の大小はともかく、そういうことがあったのは事実であり、それを否定することはできないわけであります。
そういう点で、特にアジアの人々に対しては、この日本という国は加害者であったんだということを忘れてはならないと思うのであります。また、その意識を根底にして、その国の民族の心の痛みを理解する日蓮正宗の僧侶でなかったならば、本当の温かい心の篭(こ)もった指導、教導はできないということを知っておいていただきたいと思うのであります。
日本でも最近、いわゆる従軍慰安婦の問題や、あるいは中国大陸で731部隊という部隊が細菌兵器を使って人体実験を行ったというような報道もあります。それから中国あるいは韓国の人々を強制連行して、炭坑や道路建設、鉄道建設等の厳しい労働に従事させたという問題もあります。
そういうものに対する認識をきちんと持っていなければいけないし、それからアジア各国の中学校、高等学校の教科書などを見ますと、やはりそうしたある時代の日本の残虐な行為というものがきちんと載せられております。ですから、その国の子供達はそういうことを実際に学んで大きくなっております。
それに対して、私達日本人のほうは、仮りに教科書にそういうことが載っていたとしても、被害者の国の教科書と比べれば、ほんのごくわずかでしかなく、歴史教育は古代から順番にやっていきますから、どうしても時間がなくなって、現代史の勉強はほとんどされていない、教育されないというのが日本の教育の現場での実状であります。
しかしアジアの国の人達は、そういう現代史を中心に勉強しているのであります。したがって、そういうことからの問いかけがあった時に、日蓮正宗僧侶としてそれを知らない、またその傷みを理解する心もないということでは、海外広布の1つの障害となりかねません。そういうことも含めて、どうか温かみのある僧侶となって、適切な指導を海外各国において展開していってもらいたいという気持ちがあり、その上からアジアに関する歴史認識ということも特に取り上げた次第でございます。
そのほか、特に社会福祉の取り組みでありますが、これも実際に台湾では奨学金を授与したり、あるいは連休などを利用して公園や海岸の清掃をしたり、それから台湾の5ヵ寺のそれぞれで、信徒を含めた形で集団で献血に協力をするというようなことをやっております。
それからインドネシアでも、麻薬に犯された子供達、あるいは家出少年、不良少女というような人達を本部で60人、70人と受け入れて、その子供達を更正させて、しかも職業に就けさせる。あるいはダンスのチームとか音楽のコーラスのチームというものを作って、そういう不良少女や家出少女を更正させて、しかもそういう人達をプロのダンサーにまで教育して、実際にテレビ出演をしたり、地方公演を行ったり、また本部に生活しながら、信心活動と合わせてそうした文化活動に従事しております。
そういうことが政府に認証され、評価されて、あのような95パーセントをイスラム教の人達が占める国にあって日蓮正宗の信仰が認められているのです。しかも仏教のなかでは、僧侶の常駐が認められているのは日蓮正宗だけであります。そういう信頼を勝ち得ることができたというのも、そういった社会貢献も1つの要因になっているということを知って
いただきたいと思います。
つたない報告ではありましたけれども、海外布教研究会の現在の状況をお話し申し上げまして報告に代えさせていただく次第であります。
御静聴、有り難うございました。
(おばやし にっし)
―富士学林大学科―
(『大日蓮』H15.8)
6月25日、東京都渋谷区の富士学林大学科(法教院)において、海外状況説明会が開催された。
この説明会は、世界広布の現状を目の当たりにしている方々の実体験を通して、学生に海外布教に対する関心と熱意を抱かせることを目的として実施されるものである。
本年度は、宗務院海外部の野村信導書記と、京都市右京区・法華講平安寺支部の金淳植(キム・スンシク)氏を迎えて、昼の部を午後零時40分から(2・4年生対象)、夜の部を5時から(1・3年生対象)、各80分間、開催された。
初めに楠美慈調富士学林大学科事務局長より挨拶があり、繁忙のなか来校した両名に対して、丁重な謝辞が述べられた。また学生に対しては、真剣に拝聴して海外の現状を感じ取り、自らを奮い立たせてほしい旨が述べられた。
次に金氏が登壇し、「韓国社会と宗教、そのなかの日蓮正宗信徒」と題する説明が行われた。
このなかでは、最近の韓国の社会事情を中心として、韓国では宗教がどのような位置づけになっているのか、研究機関の調査や統計等を用いて述べられた。また、日蓮正宗信徒がどのようにして信心活動をしているのか、映像や写真を通して紹介された。
そして韓国では、僧侶が常駐できない社会事情によって総本山へ登山しないと御授戒が受けられず、正式な日蓮正宗信徒となれない人々が大勢おり、そのようななか、昨年の海外信徒総登山大法要には3000人ほどの信徒が登山し、多くの方が御授戒を受けたことが述べられた。
最後に「韓国における宗教は形骸化され、多くの民衆から嫌われているのが実状であります。だからこそ大聖人様の真の仏法の弘教が必要であり、我々を真に導いてくださる師匠を一日も早くお迎えしたいと大勢の信徒が願っています。大聖人様の御金言どおり、今後さらに世界へ広がる日蓮正宗であってほしいと願ってやみません(取意)」と、若い竜象のさらなる成長に期待を寄せ、話を締め括った。
続いて野村師が登壇し、「異文化における日蓮正宗の布教」と題して説明が行われ、海外部において自身が担当するスリランカの広布進展状況について述べられるなど、世界中で大聖人の仏法を純粋に求める人が増えていることを紹介された。
野村師は、、自身も出席したスリランカでの宗旨建立750年記念法要のビデオを放映しつつ解説を加え、人口の7割以上が小乗仏教徒であるスリランカにおける正法流布の大躍進や、現地の方々の苦労と活動について、判りやすく説明した。そのなかでは、厳しい社会情勢、経済状況においても、御本尊を求める強固な信心によって未曽有の大発展を遂げている世界広布の姿、現地メンバーの純粋な姿に学生一同は強く心を打たれた。
そして野村師は、「僧侶として、人間として、どう生きていくか。小さくまとまることなく、海外を見聞して視野を広げてほしい。また、海外布教では御本尊の功徳と御加護をより一層、実感させていただくことができ、苦労が多くとも喜びにあふれた生活を送ることができる」「僧侶においても、信心の成長は逆境をどれだけ乗り越えたかにある。その上で、多くの学生諸君が海外布教の道に進まれることを期待している(取意)」と、学生一同を激励していた。
最後に、学生代表の謝辞が、昼の部は4年生の佐藤法忠君から、夜の部は3年生の長野法総君から述べられ、海外状況説明会は終了した。
学生一同にとって、海外布教の様子を身近に感じることで、自己の怠慢を払拭(ふっしょく)するよい機会となったことであろう。自らの信心を省みて、さらなる成長を誓い合うことができた有意義な説明会となった。
(大学科事務局)
平成15年度
(『大日蓮』H15.7)
5月21日、宗務院において、本年度第1回目の海外派遣要員研修会が開催された。同研修会は、年々開けゆく海外広布の進展に伴い、海外部が年2回、開催するものである。
午前10時から、日ごろの語学習得の成果を試す英語の試験が行われ、引き続き、11時から研修が開始された。まず尾林日至海外部長より挨拶があり、「海外派遣要員として常日ごろから使命感をもって大聖人の教義と語学習得に取り組んでいただきたい」(取意)と述べられた。
次に「活動報告」では、岡山県岡山市・妙霑寺在勤の在間良妙師と秋田県横手市の勝法寺住職・土屋雄聡師の2名が日ごろの語学研修の取り組みと今後の抱負等を発表した。
続いて、外国語による「3分間スピーチ」が行われ、初めに東京都大田区・宝浄寺在勤の佐藤信覚師が英語で、次に岐阜県恵那市の得浄寺住職・桐越正忠師が中国語で、最後に宮崎県高岡町の寿正寺住職・柏熊信乗師が英語でそれぞれスピーチを披露した。
昼食をはさんで講演に移った。まず、マレーシアからの留学生で現在、筑波大学大学院に在学し、海外信徒サポートスタッフとして活躍する茨城県つくば市の本証寺信徒・蒋雪瑩さんより「異文化との触れ合い」と題し、次に宗務院海外部で台湾・香港等を担当する堀沢良充師より「私と中国語」と題し、それぞれ講演があった。語学習得での貴重な体験談や苦労話等に参加者は熱心に聞き入っていた。
小憩ののち、昨年の海外信徒総登山大法要のビデオを視聴したあと、中本代道海外部主任から海外布教の現状報告、続いて石橋頂道海外部主任から海外派遣要員制度について説明があった。
最後に尾林海外部長の総括をもって3時過ぎに研修の一切が終了し、一同は海外広布への決意を新たに散会した。(佐藤正俊記)
[画像]:海外派遣要員研修会